今回は、iGEMや合成生物学分野に大きな影響を与える企業であるGinkgo Bioworks (ギンコ・バイオワークス)について紹介します。
この企業は、2021年5月にSPACを利用した上場を発表しました。企業評価額が総額175 億ドル(1.92 兆円、1ドル=110円換算)にもなり、業界内外から大きな注目を集めている企業です。今回はそんな企業について、”どのような経緯で創業時されたのか”と、”現在の主な活動について”を、まとめました。
本記事では前編部分である、”どのような経緯で創業時されたのか”について紹介します。後編部分である、”現在の主な活動について”については、こちらをお読みください。
※本記事は、特定銘柄および株式市場全般の推奨や株価動向の上昇または下落を示唆するものではありません
合成生物学 ユニコーン企業 Ginkgo Bioworks はどのように創業されたか
2009年の創業
Ginkgo Bioworksは、2008年にMITにてPhDを取得したJason Kelly, Reshma Shetty, Barry Canton, Austin CheらとTom Knight 教授によって、遺伝子工学/合成生物学(Synthetic biology, Synbio)を駆使した産業用に有用な物質を作成することを目的にし、2009年に創業されました。
彼らは、今では合成生物学の権威であるTom KnightやDrew Endyの元での教育を修了し、深い専門性を有していました。さらに、業界で大きな影響力をもつ教授陣の協力を受けながら、スタートアップを開始しました。
創業初期の様子
一般的に、バイオスタートアップを創業するためには、多くの設備投資が必要になります。そのため、参入障壁がとても高い領域であると認識されています。しかし、彼らは幸運なことに、創業した2008年はアメリカで大きな景気後退が起きており、多くの同業者が廃業したため、それらの会社の機器を中古で破格の安さで揃えることができました。
創業当時は、DNA合成や環境問題の解決など、いくつかのアイディアを持っていましたが、確固たるビジネスモデルを確立することができずにいました。そこから、いくつかの市場の調査を経て、自らの強みとマッチした香料の市場にかけることにしました。
iGEM 2006 MITチームでの経験
創業者のメンバーらは、2006年にMIT iGEM チームとして、大腸菌で香料をつくるプロジェクトに参加していました。そのプロジェクトでは、グリーンミントとバナナの匂いに関する香料の合成を助ける酵素を発現させる遺伝子パーツを作成しました。(プロジェクトの詳細は、公式発表 を参照ください。)
(iGEM 2006 MIT より参照)
創業初期のビジネスモデル
Ginkgo Bioworksはこのような経緯から、合成生物学手法により、香料を大腸菌や酵母に作らせる研究開発を進めてきました。特に、バラの香りなどの希少性の高いものや、絶滅してしまったり、自然界に存在しない香料についての作成を目指しました。
これらの香料の開発と販売にあたり、彼らは既存の大手香料会社や調香師などと協力することを選びました。このように市場におけるキープレーヤーと協力していく姿勢は、現在でも彼らの大きな特徴の一つです。このようにパートナーシップを結ぶことで、さまざまな産業に参入することを可能にし、結果として、企業を急激に成長させることができました。
iGEMに与えた影響
彼らのようなiGEMプロジェクトをベースに、スタートアップを開始したことは、iGEMにも大きな影響を及ぼしています。
彼らはiGEM発スタートアップのパイオニア的存在であり、現在では150社以上もiGEM発スタートアップが誕生することになりました。
彼らのような活動や社会の関心によりiGEMは、発足当時のアカデミック寄りな大会から、より産業界よりな大会へ変化を続けています。
まとめ
Ginkgo Bioworksは、学術界で大きな影響力を持つグループが設立した、合成生物学分野におけるパイオニア的なスタートアップ企業です。多くの産業界のトップステイクホルダーたちと連携することで、多くの注目を集めることにも成功しています。
彼らは、時代にも恵まれながら、合成生物学分野を大きくすることに成功し、分野の関係者に大きな希望をもたらしています。
現在では、創業当時のビジネスモデルから大きな変貌を遂げ、合成生物学分野におけるAWSと評されるようなプラットフォーマーを目指しています。そんな現在(2021年)の状況は、こちらをお読みください。
参考文献
Ginkgo Bioworks HP (About)
iGEM Blog - Synthetic Biology, iGEM and Ginkgo Bioworks: Tom Knight's Journey
An Interview with Ginkgo Bioworks’ Reshma Shetty On Co-Founding Synthetic Biology’s First Unicorn