iGEM 2022 Competition は、全世界から、5000人以上 ( 300チーム以上 ) が参加し、大きな盛り上がりを見せました。また、iGEMは19年間続いてきており、同窓生たちの各方面での活躍をみることも少なくありません。iGEMは、合成生物学 ( Synthtic Biology ) 業界の中で、最も大きな影響力を持つものになっていることは、疑いの余地がありません。
COVID-19のため、オンライン開催であった2年の間に、多くの新規プロジェクトが開始され、Jamboreeで、それらの全貌を見ることができました。Jamboreeが、初めてボストンを離れ、パリで行われることに象徴されるように、これから新しいiGEMが創られていくように感じます。
本記事では、そんなiGEMについての現状と、次に向かう目標について、紹介したいと思います。
また本記事は、iGEM・Synthetic biology(合成生物学)・Japan Advent Calendar 2022の2日目の投稿になります。
iGEMの現状と次なる目標 (2022年)
目次
iGEM Competition
iGEM 2022 Competition は、346チームが、3つのセクション (High School、Undergraduate、Overgraduate)、さらに11のTrack (Diagnostics、Therapeutics、Climate Crisis、Environment、Conservation、Food & Nutrition、Biomanufacturing、Industrial Scale-Up、Energy、Foundational Advance、Software & AI) (High Schoolは、Track選択なし) に分かれ、全体のTopと、TrackごとのTop、Special PrizesのTop、また各基準が設定されているGold、Sliver、BronzeのMedalを目指してプロジェクトを行い、発表しました。
その結果、173チームがGold medals、94チームがSilver medals、57チームがBronze medalsを獲得し、全体のTopは次のようになりました。
Undergraduate セクション
1位 : TU-Eindhoven (Netherlands) - 自己免疫疾患の治療用の細胞の開発
2位 : INSA_Lyon1 (France) - 植物の病気を検出
3位 : HKUST (Hong Kong) - 生魚の鮮度の検出
Overgraduate セクション
1位 : Ucopenhagen (Denmark) - 生分解性の漁網用の繊維の開発
2位 : Montpellier (France) - 牡蠣養殖場での病気の検出
High School セクション
1位 : Lambert_GA (United States) - 冠動脈疾患の検出
2位 : PuiChing_Macau (Macao) - 水耕栽培に役立つpH調整する細胞の開発
優勝したチーム以外にも、多くのチームが、困難な課題に対して、とても魅力的な合成生物学的な解決策を提案していました。
参考 : iGEM 2022 Competition の結果
参考 : iGEM 2022 Jamboreeの簡単なまとめ
iGEM’s Next Purpose
iGEMは、2003年に、学部生16名に向けた、たった一つの授業から始まりました。その授業では、商業用のDNA合成が初めて可能になったことを受け、「コンピューター上で設計したDNAパーツが生物で機能するのか?」という問いが立てられました。そしてその後、1年の間にDNAパーツを設計し、生物で検証し、発表するという、iGEMが誕生しました。そこから、多くの課題や困難を乗り越え、少しずつ知識や技術を発展させていったことで、より多くの可能性を検証することができるようになりました。
2022年には、5000人以上 (300チーム以上) の参加者が、iGEMに取り組んでいます。
iGEMは、もはやコンペティションを行うだけのものではありません。次の目標はより壮大なものです。
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This is iGEM’s next purpose: to make sure that the field of synthetic biology, and all the power that this technology holds, gets developed everywhere by everyone.
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iGEMの次の目標 : 合成生物学分野のすべてのことを、"どこでも"、"誰でも"、開発できるようにする。
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出典 : iGEM Vision
iGEM Technology & iGEM Responsibility
iGEMが、次の目標に向かうためには、誰もが合成生物学の知識や技術に容易にアクセスでき、安全に使用できるようにする必要があります。これまでにiGEMは、competionを通して、合成生物学が抱える難点をいくつも明らかにしてきました。それらの難点に対応するために、特定の項目ごとに委員会を作り、competionのルールに反映させることで、難点を克服するという試みが行われてきました。それらの成果により、多くのcompetionが、安全で容易にプロジェクトを行うことができるようになってきました。
それらの委員会から発展し、iGEM TechnologyとiGEM Responsibilityが設立されました。iGEM Technologyでは、iGEM Registry of Standard Biological Partsの管理や配布などから、実験の標準化や合成生物学研究におけるDesign-Build-Test-Learn cycleについての説明などまで、実験技術に関するすべてのことをサポートを行っています。また、今後の合成生物学の標準となるような技術を選定して広める活動も行っています。
参考 : iGEM Technology
iGEM Responsibilityでは、プロジェクトを安全に行うために必要である、バイオセーフティとバイオセキュリティの規則を定め、プロジェクトが安全に行われているか審査します。また、ラボを超えた影響を考えるために、利害関係者と関係を構築し、共にプロジェクトを考える ( Human Practice ) ためのサポートを行っています。これらのサポートをすると共に、iGEM Responsibility自体でも、合成生物学の普及に向けた安全性と影響を議論するワークショップを数多く開催しています。
参考 : iGEM Responsibility
iGEM Startup (EPIC program)
多くのチームが、安全で容易にDNAをデザインし、生物で検証できるようになったことで、チームのプロジェクトとして現実の課題にも応用できるような壮大なことに挑戦できるように変化してきました。このことにより、現在では、150社を超えるスタートアップがiGEMから誕生しました。彼らは、実際に合成生物学の力を使用して、現実の課題を解決し始めています。このサイクルをより加速させるために、iGEM Startup (EPIC program) が設立されました。iGEM Startupでは、主に3つの活動をメインに行っています。共同創設者のマッチングや企業や投資家とのネットワーキングのためのワークショップを行うVenture Creation Lab。創業初期のスタートアップのメンタリングを行うMentorship Program。Jamboreeでスタートアップコンテストを行う (Startup Showcase)です。iGEM 2022のStartup Showcaseでは、RebX (菌類を使用して有用物質を生産する会社) が優勝しました。
参考 : iGEM Startup
参考 : iGEM Startup 2022 blog
iGEM Leagues
iGEMにおける次なる目標は、「合成生物学分野のすべてのことを、"どこでも"、"誰でも"、開発できるようにする」ことですが、現在の世の中では、すべての地域が均一の教育・技術・経済水準にあるわけではありません。それぞれの地域で抱える問題は、全体の問題とは異なることがあります。ある地域では、教育的にも、技術的にも、経済的にも、iGEM Competitonに参加する水準に達していないことがあります。それらの課題を解決し、さらには、それらの地域においても、合成生物学によって、地域の課題を解決できるようにするサポートを行う必要があります。そのような要請から、iGEM Leaguesが誕生しました。
現在、iGEM Leagueは、Design League (LATAM地域)とIndian Leagueの2つが存在します。これら2つのLeagueでは、現地で抱える教育面での課題を解決するために、さまざまな取り組みを行っています。また、Design Leagueでは、合成生物学を使用して地域の課題を解決するための (iGEM Competitionではない独自の) Competiton を、行っております。今後は、African LeagueやIndonesian Leagueなど、10個程度のiGEM Leaguesの誕生が期待されています。
参考 : iGEM Leagues
参考 : iGEM Design League
参考 : iGEM Indian League
iGEM Community (former After iGEM)
そして、これまで紹介した魅力的なプロジェクトを行っている人々の活躍を内外に伝え、良いネットワークを形成することも重要です。過去のiGEMerから、現在のiGEMer、そして未来のiGEMerを繋ぐことで、iGEM全体の価値は、より強固なものになります。iGEM全体、そして関連のあるすべての人とコミュニティを繋げるために、iGEM Communityが設立されました。
iGEM Communityでは、複数のトピック ( Academia & Research、Industry、Education、Impact Grant、Governance & Policy、Science Communication、Bioart、Synbio Associations Around The World、Women in STEM、Open Science & Accessibility、PI Hub、Mentors Network) ごとに分かれ、それらに関連するコミュニティとiGEMを繋ぐための活動や、各地域を代表するiGEMerを選出し、iGEM Ambassdorとして、各地域のiGEM Communityを活性化させるための活動を行っています。このような活動によって、誰がどのような活動を行っているのか容易に把握できるようになり、必要な時に、必要な連携を素早く行うことができるようになります。そして、iGEMのコミュニティをより拡大し、大きな影響力を持つようにしていきます。
参考 : iGEM Community
参考 : iGEM Ambassador Program
まとめ
現在のiGEMでは、さまざまなプロジェクトが進行しており、これまでのiGEM CompetitonのみであったiGEMから、合成生物学分野に関するすべてのことを行うことができるような大きなコミュニティへと、変化し始めています。この大きな変化を迎え、より広いコミュニティを求めているiGEMに、ぜひ参加してみては、いかがでしょうか。
日本のiGEM コミュニティは、Discordにて、情報交換を行っています。また定期的に参加できるイベントも複数開催しております。もし参加に興味がある方は、ご連絡をお待ちしております。(近くのiGEMerもしくは、 yomogy.info@gmail.com までメールお願いします。)