本サイトでは、日々合成生物学に関する研究を行う研究者や、合成生物学に関する世界最大のコンテストiGEMに参加する人たちが、どのような本を読んでいるのかについて、紹介しています。
本記事では、日本の中で最も合成生物学分野を紹介する本として人気がある、須田桃子氏の『合成生物学の衝撃』について、その分野の研究者の視点から、まとめました。(感想やレビューを含みます)
[書評]『合成生物学の衝撃』合成生物学に興味を持ったら最初に読むべき人気作
本書についての要約
本書では、合成生物学に関する現在までの流れについて解説しつつ、著者が実際に研究現場に出向き、そこで多くの研究者のインタビューを行い、合成生物学が抱える良い面と悪い面に関する、多くの人物の葛藤などが記されています。本書は、最先端の科学である合成生物学を取扱いながらも、数式や化学式などを使用せず、一般的な読者に向けて書かれた本であり、多くの人が合成生物学に触れる入り口となるような、日本の合成生物学分野を代表する本です。
著者情報
本書の著者は、須田桃子氏です。須田氏は、最先端の研究を一般的な読者に、ドキュメンタリーとして伝えるプロフェッショナルです。かつてはSTAP細胞に関する事に関して記した、”捏造の科学者”という本が、複数の賞を受賞するという実績も持っています。
そんな須田氏は、次の題材として合成生物学について選択しました。それの熱量は、本書の執筆にあたり、2016年秋から1年間、実際に合成生物学の最先端の研究が行われるアメリカの大学の遺伝子工学・社会センターにて、客員研究員として合成生物学に関する研究を行うという、大変強いものになっています。そんな須田氏に記された本書は、実際の研究現場の現状の臨場感を、そのまま一般的な読者に伝える本になっています。
本の内容
本記事で取り上げる、『合成生物学の衝撃』は、大きく分けて、3つの軸で描かれています。
現在の合成生物学における潮流の概略
大きな軸の1つ目が、現在の合成生物学における潮流についての科学的側面に関する歴史的な視点からみたものです。
さらにその中でも、3つの流れを取り上げています。その1つ目は、生物学を工学化することをかがける、MITを中心とする動きについて取り上げています。工業化する上で、必須とも言える、DNAパーツの規格化についても “ BioBrick “ について取り上げ、どのように工業化しこうとしているのかが詳しく記載されています。それらの活動を大きく支えるiGEMについても紹介されています。(iGEMについて、本サイト別記事もご参照ください)
2つ目は、Craig Venter を中心とした、動きである。孤高の天才と評される彼が、独立してどのような事を成し遂げたかについて取り上げています。また、未来に向けた展望として、世界に衝撃を与えた、世界初の人工合成ゲノムによる細胞である、JCVI-Synについても詳しくまとめられています。
3つ目は、CRISPR-Cas9に代表される遺伝子編集を応用したプロジェクトについてとり喘げています。特にマラリア蚊の撲滅を目指した遺伝子ドライブなどについて重点的に紹介しています。
合成生物学者の苦悩
次に、大きな軸の2つ目として、なぜ研究が行われているかについて、多くの人々へのインタビューを踏まえて記載されています。合成生物学は、社会に与える影響の大きさから、大きな組織による多額の資金の投入なども目立ちますが、その中で働く研究者たちは、何を考え、行動しているのかについてまとめらています。
ここでは、合成生物学の分野の力は、環境問題の対策など良い面も存在しますが、それと同時にリスクも抱えている事を明らかにしました。
また、これらのインタビューは、この分野の主要人物へも行えており、しっかりとした取材に基づいて、書かれている本であるということを裏付けるものとなっています。
ただ、本書においては、日本人的価値観ゆえに、軍事費に関する批判的な側面が強く見られるが、他国においての軍事費の科学的な利用についての考えについては、注意深く考察する必要があるように感じられます。
合成生物学の未来と倫理
そして、本書の最後の大きな軸として、合成生物学に関する未来について、倫理的な側面から考察しています。
ここでは、The Genome Project-write (GP-write, ヒトゲノム合成計画)や、JCVI-Synについて取り上げられている。それらを研究する研究者が、何を考えているのかについて、その背景や信念などを紹介しながら、それらのプロジェクト紹介している。これらのプロジェクトは、大きな倫理的な論争を巻き起こすような題材であり、片方の側面から記載することは、大変危険であるが、それぞれの立場や状況についてもしっかりと記載されており、これらの問題に関する中立的な意見を学ぶことができます。
またエピローグとして、カズオイシグロ氏による『わたしを離さないで』からの引用は、印象深いです。個人個人が、最先端の科学を知った時、倫理的な価値をどのように持つのかについて、考えさせられます。
本書では、これら3つの軸から展開されており、それぞれの章も簡潔にまとまられています。そのため、読者が合成生物学のどこに興味があるのかを知ることもできる、合成生物学に触れる入門書として高い水準のものになっています。
感想
記事作成者A
合成生物学は、生物や植物をアップグレードできる画期的な分野です。さらに、基礎的な技術の開発の成熟により、実行までのハードルは、大変低くなっています。それらの歴史や経緯についてまとめた本書は、これ以降にどのように、この分野が広がっていくかについての示唆を与えてくれます。コンピューター産業が、インターネットを介して、広告とつながり、大きな収益をあげたように、合成生物学に関しても、何かと合わさることで、大きなイノベーションを起こすことになると思います。しかし、必ずしもそれらの行動が、ある人にとってや地球環境にとって、良い影響を与えるとは限りません。本書でも述べられているように、多くの意見が入り混じる、この魅力的な分野が、どのように発展していくのか、今後も注目が必要だと感じさせる本でした。
あとがき
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参考文献
須田 桃子, 『合成生物学の衝撃』, 文藝春秋 (April 13, 2018)